発心門王子〜熊野本宮大社
山のみち
世界遺産の熊野古道・中辺路を歩きます。起点の滝尻王子から熊野本宮大社までは約40キロ。レコーダーを片手に、時には音を録りながらの山歩きです。千年の歴史をもつ山の道で、見える景色と聴こえる音。
本宮の世界遺産センターに車をとめて、路線バスで発心門(ほっしんもん)王子へ。
発心とは、菩薩発心、すなわち仏堂に入る志を決意する。中世、ここには「発心門」と呼ばれる大きな鳥居があり、くぐりぬけると熊野三山の聖域と考えられていたそうだ。ようやく聖域に足を踏み入れた安堵と期待と喜びは、歩いた距離に比例する。
都から徒歩でやってきた人々は感無量だったに違いないが、我々は路線バスでぴゅっと来てしまった。なんの感慨もないままに、「さぁ行こか」と。
熊野古道は集落の中を抜けていく。
山村の風景。そして音。
古道沿いに、閉ざされた校舎があった。三里小学校の分校だったが、昭和48年に廃校となったそうだ。理由のひとつが道ノ川集落8戸の集団移転なのだが、道ノ川の集落からここまでの山道も、低学年では大変だったことだろう。
果無(はてなし)山脈、もこもこした茶畑、道ばたのお地蔵さん…。山村の暮らしに思いを馳せながらぶらぶら歩いて伏拝王子に到着した。ここから熊野本宮大社が一望できたので、人々は平伏して拝んだそうだ。 連なる山々の谷間に大斎原(おおゆのはら)らしいのが見えた。意外と遠いな。
伏拝茶屋であずきバーを食べて休憩する。ここの売店で、ずっと欲しかった笠を700円で購入した。帽子より格段に涼しそうなので、初夏の古道歩きにはぴったりではないかと。
偶然出会った語り部の番留京子さんも、似たような笠をかぶっていた。もしかしてお揃い?と思って聞いてみたら違った。番留さんがかぶっていたのは土地の方が編んだ伝統工芸品・皆地笠(みなちがさ)で、今はもう、作る方が一人しかおられないそうだ。最後の手仕事師とは、どんな方なのだろう。
値打ちものの皆地笠をかぶった番留さんは「お先に」と手をふって山道へ。後に残った私たちは、お茶やしいたけなどの素朴な産品を見せてもらいながら、お店の方にあれこれ話を伺った。
「わたしら自分で作ってるから、みな無農薬やで」と勧めてくれたのは、伏拝地区婦人会のメンバーでお二人とも名前は松本さん。
松本さんたちとの会話から、この地区の盆踊り情報を得た。伏拝には、現役の音頭取り(歌い手)がおられて、名を松本喜代志さんというらしい。「音頭とってくれたら、わたしもすぐ踊れるわっ!」と松本さんが声をはずませた。「盆の14日がいちばん盛り上がる。14日においで」と松本さんも。(伏拝の集落は松本さんだらけ、らしい)
そこから山中へ入って、1時間あまりで熊野本宮大社に到着した。熊野三山(熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社)の一つで、世界遺産にも登録されている。中世の昔から貴賎や男女、信不信を問わず、すべての人を受け入れてきた由緒ある神社だ。熊野の土地とのご縁に感謝して参拝。桧皮ぶきの社殿が荘厳な雰囲気だった。
世界遺産センターに戻った時、再び番留さんと出会えて喜ぶ。しかも番留さん、別れ際に法螺貝を吹いてくださった。この音は要るやろ、と思ったので慌ててレコーダーを出しかけたら、「下手だから」と。
なので残念ながらオノマトペで。
ぶうぉーぶぉぶぉ♪ (上手でした)