⑬ 印刷工場のドラマ
照井壮平写真集『狼煙』(のろし)、最後の山場はサンエムカラーさんでの印刷立会いだ。デザイナーの硲(はざま)さんはわざわざ東京から、照井さんと北浦は和歌山から京都へ。ようやく印刷だという嬉しさと、ここで何が始まるのだろうという不安な気持ちで撮った一枚目がこれ。工場の前である。
ドアを開けたら、シャカシャカと規則正しく繰り返す印刷機の音が聞こえた。入り口のボードには本日のスケジュールとして道音舎の名が記されている。 入場許可証をそれぞれ首にぶらさげて、さらに奥に進む。
シャカシャカシャカという音の中で、初めて目にするオフセット印刷機の大きさに驚く。
狼煙を印刷する機械は1号機である。
壁の貼り紙を見て、それぞれの印刷機を動かす方は「機長」なんだなと理解する。
印刷機1台に、機長、サブ、用紙準備係という3人が配置されているようだ。
ちなみに「ヤレ」とは、色調整などで試し刷りに使った用紙のことらしい。
お世話になる1号機の機長さんを、後ろからこそっと撮影させてもらう。
誰もが真剣。「写真撮らせてもらっていいですか?」なんて聞ける雰囲気は微塵もない。
私たちも印刷機の横に立ち、 1台(複数ページを印刷した一枚の大きな紙)ずつ色を確認させていただく。OKだったらサインをし、その台のみを印刷。という作業を延々と繰り返すのだが、この作業の途中で細かな要望にも対応していただいた。機長さんが機械の設定などを微調整し、理想の色に合わせてくれる。
照井さんも真剣な表情で長丁場に挑む。
照井さんがOKのサインをした台は、その場ですぐ印刷が始まり、用紙が印刷機に送り込まれていく。なんという臨場感。
立会いの途中、工場の2階で硲さんは表紙のデータに手を入れ始めた。オフセット機で印刷した表紙の校正の際、文字の線に気になるところがあったようだ。理想の線が出なかった場合、データを差し替えるつもりで作業をする。↓ NOROSHI の O ですね。
表紙のシルクスクリーン印刷は、別会社の東美企画さんが担ってくださる。サンエムカラーさんの工場からは車で20分ほどだ。移動途中の車内で「多くの職人さんとのつながりが、私たちの会社の財産なんです」とアートブック・ディレクターの前川さんが話してくれた。京都という土地柄もあるだろうが、地域の職人さんたちとの分業が成り立っていることが素晴らしい。
ところで、東美企画さんの工場に着いてドアを開けるとき、前川さんが発した第一声は「おおきにー」だった。紀州人にはちょっと異文化。
カメラを構えた女性は、サンエムカラーの社員さんで「一冊の写真集ができるまで」という記事を連載してくれている水野さんだ。(彼女のブログのおかげで、私も色々と復習できるのでありがたいです)
硲さんが気にしていた文字の線はどうだろう。
「ぱきっと出ていますね」と満足そう。(ギリギリまで粘って作った修正データは不要となる)
左側がシルクスクリーンで印刷した表紙、右がサンエムカラーさんのオフセット機で刷った表紙。
東美企画の神代さんが色々と工夫をして美しい線を出してくださったそうだ。
このあと、『狼煙』の背の部分に施す印刷も難しい技術なのだと神代さんが笑いながら話し、「完成した本の背を見るたびに、神代さんのお顔を思い出しそうです」と硲さんが言った。様々な職人さんの技を結集して、写真集が出来上がっていくのだとしみじみと実感する。ありがたいことだ。
硲さんと私が東美企画さんにいる間に、照井さんの印刷立会いも無事に終了していた。「最後に機長さんとがっつり握手をして終わりました」と照井さん。「どっちから握手求めたんですか?」と硲さんが聞いていたけど、照井さんですよね。
1泊2日の印刷立会いも終わった。今頃はきっと製本会社で、見知らぬ職人さんが仕事をしてくださっているはず。そういう職人さんたちに恥ずかしくないよう、私たちも技術を高めていかねば。
*サンエムカラーの水野さんが詳しく書いてくださった記事はこちらです。
狼煙のサイトはこちらです。