三体月
ある時、ひとりの猟師が山で大きなイノシシを見つけたんや。
こんな大きな獲物を逃してはならんと、気合いを入れて矢をふりしぼった。
矢はイノシシの腹を見事に射抜いたが、死なん。イノシシはポタポタと血を流しながら山の奥へ走って逃げて行ったので、猟師も必死に追いかけて行った。
大斎原(おおゆのはら)まで来たら、イノシシはイチイの木の下で倒れこんどった。
くたびれ果てた猟師も、もう動けん。そこでイノシシの肉を食べて眠りこけてしもたんやな。
そのうちあたりは真っ暗になって、猟師もやっと目が覚めた。
ふと頭の上を見上げたら、木の枝の先に三枚の月がひっかかってる。
こりゃ何ごとやと、びっくりするわな。
猟師は月に向かって聞いた。
「なぜ、ここに掛かっているのや」
すると月はこう答えた。
「われは熊野三所権現なり」
わしは熊野の神さんや、と言うたわけや。
びっくりした猟師は、そこに祠を建てて熊野権現を祀った。
それがのちに熊野本宮大社になったんやよ。