「熊野びと」のお一人目として、語り部でもある森本邦恵さんに話を伺いました。静かで謙虚な言葉や、あたたかな声で語ってくださった山の民の暮らし。今を生きる私たちにとっても、大切な示唆を含んでいるように思いました。こういう貴重な話をしてくれる方が地方にはまだおられるので、できるだけ伝えていけたらと思います。
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湯の峯温泉の小栗屋さん
今回の熊野取材で初日に泊めていただいたのは、湯の峯の民宿「小栗屋」さん。
ご主人の安井理夫さんは、本宮中学校の元校長先生で、小栗判官(おぐりはんがん)の伝承を今に伝える語り部でもある。
小栗判官、知ってます?
中世から近世、説教節などの口承芸能によって流行した壮大な物語で、藤沢、大垣、米原、京都、和泉、熊野、あの世など、各地が舞台となっている。
自力で動くことのできない小栗さんが、人々の助けをかりて熊野を目指し、長旅の果てに湯の峯にたどりつく。そして温泉の霊力で身も心もよみがえり、照手姫と結ばれて幸福になりましたーー。
(と、3行半で書ける話ではないので、検索してください)
安井さんにはかつて、取材でたいへんお世話になった。私にとっては、忘れがたい熊野びとのお一人だ。風の噂で民宿は休業中と聞いていたので、湯の峯におられないのかと思っていたら、湯登り神事の朝にばったりと再会。「安井先生っ!」と声をかけたら思い出してくださり、「次に来る時は泊まってくれたらいいですよ」と快く言ってくださった。
という経緯でその日、夕食を本宮大社界隈で食べてから小栗屋さんに行く予定にしていた。
6時頃、竹内先生と二人で本宮の通りをうろうろするも、あいている飲食店がない。小売店に駆け込んでレジのおばさんに「このへんで、食事ができるところはないですか?」と聞くと「ないねぇ。このへんみな5時過ぎにしまるんやわ」と気の毒そうに言われてがっくり。
「新宮まで行けばあるけどねぇ」って、新宮遠いですけど…。
じゃぁおにぎりでも買おうかと相談していたら、奥から息子さんのような方がわざわざ出てきて「渡瀬温泉まで行けば、8時半まであいてる店あるで。簡単な食事ならできますよ」と親切に教えてくれた。
さっそく車で向かう。
夕焼けが川面に映えて美しい。ちなみに少し前、鹿の声を聴いたのもここだった。
(しつこいけどもう一回貼付けてしまおう。これ→ kumano0428 )
なんとか夕食にありついて、小栗屋さんに到着。
出迎えてくれた安井さんが「どこで食べてきたん? 難儀してないかと思て、さっき本宮まで探しに行ったんやで」とクリクリの目で心配そうに聞いてくれた。
「すみませんっ!」と恐縮しつつ、ありがたいことだなぁとしみじみ。
誰が探しに来てくれるんワタシ(ら)みたいなもん…と、心がほこっと温まる。何かと邪険にされる年齢なので。
民宿の内風呂「小栗の湯」に入浴後、安井さんに夜遅くまで話を伺った。私がまず尋ねたのは、「古里の記」を書かれた方のこと。
「ああ、前久保さんねぇ、もう亡くなりました」
やはり。
それでもぜひ、大瀬の古老たちに話を聞きたいと伝えると、ささっと携帯を取り出して、前久保さんの甥にあたる方に電話をしてくださった。
近々、大瀬の老人クラブで話を聞かせてもらえそう。
「大瀬の人はね、みな、ええ人です」
安井さんが目を細めた。
写真は翌朝、安井さんが作ってくれた温泉茶粥(湯の峯のソウルフード)。
小栗さんじゃなくてもよみがえりそう。竹内先生も大いに感激してくれたし、私もうれしい。
いつか「みちとおとプロジェクト」で、小栗判官の道もできますように。
こちらは安井さんが書かれた本。小栗判官のこと、小栗さんを愛する人たちの気持がとてもよくわかる。中辺路の道の駅にもありましたよ。