2013年8月26日

中辺路町高原〈6〉天空の盆踊り

里のみち

熊野の道は里を結びながら、山中を迷路のようにめぐっています。古老たちの語りや歌、伝説に導かれながら行く里の道。訪ねたのは大瀬(おおぜ)・高原(たかはら)の集落と、兵生(ひょうぜ)の廃村です。

夕立の降る山間部を走り抜け、高原に着いたのは午後6時前。途中で買ってきた「めはり寿司」をほおばりながら、盆踊りの始まりを待つ。

ふと山並みを見ると、ふんわり綿菓子のベールをかけたような雲海がうっすら。夕立のおかげだ。雲海は高原の名物なのだが、私たちは初めて見たので感激もひとしお。(早朝の雲海はもっと濃いと思います)
高原の風景にはいつだって感動するけれど、こんなきれいな場所で盆踊りがあるなんて……と見とれてしまう。

盆踊りの広場から見た雲海

盆踊りの広場から見た雲海

「まるで天空の盆踊りだ」と思いつつ、日没の山並みをうっとりと眺めていたら、地元の男性も私たちの横でうっとり顔。

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「あの山が何層にも重なったぁるやろ。日が暮れていくときゃね、いちばん後ろの山からだんだん消えていく。ほいて、一番手前の山が残って最後に全部消えるんや」
「そうですか。ほんとにきれいですよね」
「わしゃ夕方になったらここへ缶ビール持ってきて、飲みながら見てる。そりゃ美しいよ」

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何十年住んでいても、見飽きることなどないのだろう。家から数歩でこんな夕景が見られたら、私だって缶ビールを持って見に行くし、何十年もそれを繰り返す。おそらく。

しばらくして、その方の姿が見えなくなったと思ったら、集落内のスピーカーから声が聴こえてきた。「あ、さっきの人だ」と思いながら耳をすます。

「まもなく、盆踊りを始めます。今年は、○○○○君の初盆にあたりますので、その供養もかねて、行いたいと思います。みなさんのご参加を、お願いいたします。お知らせを、終わります」

ぼちぼちと人が集まりだして、「あれ、久しぶりやの」と挨拶をかわす人々。帰省してきた人も多いみたいだ。広場の片隅にはささやかな金魚すくいが用意され、子どもたちが集まっていた。

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提灯の下には音頭取りがお二人。ここも録音ではなくて、マイクを手にして歌っておられる。踊りの輪もだんだんと膨らんできた。

中心で盆踊り歌をくどくお二人

中心で盆踊り歌をくどくお二人

歌い手は78歳の廣畑春二さんで、今年で3年目だとか。「長年やってた人が急に亡くなったんで、こりゃ何とかせんなん、と思てやりだしたんです。くどく(歌う)人も昔は多かったけども、だんだんみな死んでしもてなぁ」
太鼓と囃子の方はまだお若そう。お盆のたびに東京から帰省して音頭取りをされているそうだ。

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涼しい風が運んでくるのは、雨あがりの森の匂い。「ええ感じやわ」と雰囲気に酔っていたら、けっこうな時間になってしまった。そろそろ次の盆踊りに移動せねば。集落の人たちに挨拶をして立ち去ろうとすると「あれぇ、これからやのに」と残念そうに言ってくださり、申し訳ないきもち……。

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文:北浦雅子