稲葉根王子
台風が近づいているという日、ふと思いついて熊野古道の稲葉根(いなばね)王子へ。九十九王子の中でも特に格式が高いとされる王子社だが、立ち寄ったのは初めてだ。車をおりて鳥居をくぐると、こじんまりした森があり、奥に鮮やかな朱色の社殿が見えた。
「お稲荷さんみたい」と思ったのだが、帰ってきて資料を読んでみたら、あたり。稲荷神がお祀りされていたので「稲荷王子」とも呼ばれていたそうだ。お稲荷さんは商売繁昌の神と言われるが、そもそもは豊穣を約束する神さま。江戸時代、このへん一帯の低地には水田が広がリ、稲作の守護神として信仰されていたという。
社殿の前には雨にぬれてテカテカ光る狛犬。
口にくわえてる黄色い玉は、いったい何を意味するのだろう? みかん?
頭上の木々からポタポタと落ちてくる雨粒の音。
王子社のすぐ横を流れる富田川(とんだがわ・旧名は岩田川)は、熊野詣での旅人たちが水垢離をしたところ。このあたりの王子社は、川の向こうとこちらで交互に点在する。川を渡って王子社に参拝してはまた渡り、次の王子社に参拝してはまた渡り、水垢離を繰り返しながら参詣道を歩いたという。なんでも、この川で水垢離をすれば、罪がことごとく消えてしまうのだとか。
川べりの案内板には「オオウナギの生息地」と記されていた。ここが北限らしい。
そういえば何年か前、この川でオオウナギのコドモが見つかったと新聞で読んだ。