奥熊野のカフェ「瀞ホテル」

和歌山県の本宮町から、北山村方面へ車で向かう。北山村は「飛び地の村」として知られる秘境で、周囲を三重県と奈良県に囲まれている。その途中、奈良県十津川村に入った所にあるのが、最終目的地の「瀞(どろ)ホテル」。
くねくねした細い山道を上ったり下ったりして、ようやく到着したらこんな風景が。

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北山川の上流、国の特別名勝•天然記念物にも指定されている渓谷「瀞八丁(どろはっちょう)」。碧色の神秘的な淵を見下ろして、そのホテルは建っていた。
「千と千尋に出てきそうやなぁ」と友人たちと見上げる。私がここに来たのは確か3度目だが、彼女たちは初めてなのでたいそう喜んでくれた。山道をはるばる来てよかったよ。

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ホテルの創業は1917年で、当初は筏(いかだ)師のための宿だった。近くには山中を抜けてゆく「筏師の道」もある。かつて、新宮まで川を下った筏師たちが、帰路に歩いてきた道である。櫂(かい)や土産を担いで、数日かけて帰ってきたのだろう。(奥熊野に暮らす人々の多くは筏で生計を立ててきました)

筏師のための宿も、創業から20年ほどたつと観光旅館として注目を集めるようになってゆく。車道はないので、プロペラ船が観光客を運んでくる。秘境の景勝地に建つホテルに、芸術家肌の酔狂な人たちが心をひかれるのも当たり前。与謝野晶子、鉄幹夫妻もここを訪れたというが、いかにも来そうなカップルであることよ。

店内に流れているのは、ゆったりとしたジャズ。家具や調度品、食器なども昔のものを活用し、ノスタルジックでモダンな雰囲気だ。

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カフェを経営しているのは創業者から4代目にあたる若いご夫婦で、10年ほど前まではオーナーの父上がここで旅館「瀞ホテル」を営んでいた。父上がお亡くなりになったため一度は閉鎖されたのだが、2013年に息子さんがカフェとして甦らせたのだとか。いや、本当はもう少し早く再開できるはずだったのだが、2011年の紀伊半島大水害の際に浸水し、建物の一部が流されてしまったために延期されたという。

ランチを注文してから、建物の2階を見させてもらった。渓谷を望む廊下からの眺めは、なかなかの迫力。なんて美しい。が、災害時にはどれほど恐ろしい光景だったことだろう、と思うと背中がぞくっとした。自然は美しくて怖い。

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洗面台には「手洗励行」と書かれた板があり、タイルの色合いがものすごく可愛らしい。「晶子女史も感激したやろか」と思いつつ励行。

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ランチはサラダとスープが付いた、「おかずマフィン」。マフィンもとてもおいしかったので、持ち帰り用にも買わせてもらった。(3時のおやつに車道の脇にしゃがんで食べました)

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あ、そうそう。ここは人気のカフェで入れないこともあるので、事前に予約がおすすめですよ。定休日や時間もちゃんと確認してから行かないと、こんな奥まで行って閉まっていたら山を眺めて呆然としますよ。

こんな感じで1泊2日、熊野の旅はおしまいです。

 

                「瀞ホテル」さんのfacebookページはこちらです。

投稿日:2014年11月30日
カテゴリー:みちとおと取材記
文:北浦雅子