2013年8月19日

本宮町大瀬〈7〉真昼の盆踊り

里のみち

熊野の道は里を結びながら、山中を迷路のようにめぐっています。古老たちの語りや歌、伝説に導かれながら行く里の道。訪ねたのは大瀬(おおぜ)・高原(たかはら)の集落と、兵生(ひょうぜ)の廃村です。

8月の初め、大瀬取材でお世話になった野地さんからハガキをいただいた。13日の午後1時半から大瀬の公民館で盆踊りが開催されるとのお知らせ。前回の取材では「できるかどうかわからない」というお話で、半ばあきらめていたので嬉しい。早速、あれこれ段取りをして熊野へ。

が、お盆なのにうっかり高速に乗ってしまって出だしからコケた。無念の渋滞。
3時頃に到着してがっくりしたのだが、エンジンを切ったとたんに「ヨイショ、コリャコリャ」と軽やかな音頭が聴こえてきた。
間に合ったかも。

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公民館に至る階段をあたふたと駆け上って覗き込むと、懐かしいお顔がちらほら見えた。皆さん、楽しそうに踊っておられる。91歳の久保ツエ子さんも、日の丸の扇子を振って生き生きと舞う。91歳だなんて……、信じられようか!?

久保ツエ子さん

「太鼓踊りは終わってしまいましたか」と野地さんに聞くと、「さっき踊ったけど、あとでもう一回やりましょう」と言ってくださった。踊り手さんも歌い手さんもお疲れだったはずなので申し訳なかったが、とても有り難い。

太鼓踊りが始まるまでの間、色々な踊りを見せてもらった。輪の中からは、時々笑い声もわきあがる。同じ振り付けで一緒に踊ると、言葉にならない親密さが生まれて心をつないでいくのだね。集落で助け合わねば暮らせなかった山間部ほど、年に一度の盆踊りは大切な行事だったことだろう。

前久保圭一さん

前久保圭一さん

音頭取りは主に前久保圭一さん。大瀬の住民で踊っているのは久保ツエ子さんお一人で、地域外からは大瀬出身の方々と熊野本宮伝統芸能教室の先生と生徒さんたち。夜はそれぞれ地元の盆踊りもあるので昼間に集まられたのだと思う。

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しばらくして、太鼓踊りが始まった。
三人の方が首から太鼓を下げて、真ん中で踊りながら叩き始める。
そのまわりを取り囲んで、踊り手たちも扇子を手にしてくるくると。

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最初の曲はゆったりしたテンポの「お庭参り」(入場)

アイヨ これのお庭へ 踊りが参る
アイヨ 一の門くぐり 二の門あけて…

(ぶーんという音は扇風機です)

野地保美さん

野地保美さん

「はいっ」の合図でテンポが変わって2曲目の「へんよう」(走り)に流れ込む。

アー ヘンヨウ ささら踊り
アー ヘンヨウ ひと踊り

「へんよう」の歌詞はこれだけ。とても短い曲で、終わると再び「はいっ」の合図で3曲目の「しんのび」(中走り)へ。

サー しんのび踊りを ひと踊り
サー お瀬戸廻りて鳴く鴉
サー 何を鳴くよと出て聞けば…

きりりと太鼓を打つ腕の動き、跳ねるような足さばきに目を奪われる。
曲が変わるたび、微妙にテンポを速めていく太鼓につられて私も思わず腰が浮きそう。

最後は「おたか」(大走り)で、太鼓踊りはここまでの4曲メドレー。
曲間はまったくなくて、テンポを変えながら流れるように続いていく。

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お鷹の踊りを ひと踊り
アイヨ これのお松は コリャ めでたいお松
通るお鷹が巣をかけて…

もしも昔のように馬頭観音さんの前で踊っていたら、もしも月明かりの下だったら……。そう思って窓の外を見たら、のっぺりした植林の山。森の中には馬頭観音さんと、かつての集落がある。
太鼓の音は谷間を駆け上って、先人たちの土地まで届いているだろうか。

前久保定さん

前久保定さん

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文:北浦雅子